似ているようで似ていないこの両国、双方の役所で働いて気がついた最大の違いのひとつは便所設置上のコンセプトかもしれない。
パキスタンは基本的に個室主義である。上級官僚にはそれぞれ一室が執務室として与えられており、横に付属する小部屋に電話番やお茶汲み、メッセンジャーボーイなどが押し込められている。これは植民地時代からの伝統と思われる。
ここでいう上級官僚とはグレード17~22の公務員を指し、Section Officer, Assistant Secretary, Deputy Secretary, Secretaryというように出世していく。ちなみにSecretaryは日本で言う「事務次官」相当であり、グレード22の公務員をあてるのが基本である。
すべての執務室にはバスルームが付属している。トイレ+シャワー、時にはバスタブつきである。石鹸やタオルは役所の消耗品費で購入しているものと思われる。清潔好きの官僚の場合は自宅から持ち込む場合もある。といっても多くの場合、自宅も官舎であって、基本的な経費も公費で落とせることから、自腹を切っていることにはならない。
用足し後にトイレット・ペーパーは使用しない。ローターと呼ばれる水差しあるいはハンドシャワーを活用する。まれに紙を置いてあるところもあるが、これは外国人が来ることを見越しているか、鼻紙代わりに利用しているかどちらかである。
一方中級以下の役人の執務室には個室トイレは付属していないことが多い。その場合には公衆トイレを利用することになる。水が出ないことも多く、清掃も一日一回なされればよいようである。水も出ず、清掃人も来ないとどうなるか、これはちょっと書くのもはばかられる。あんまりひどい場合には庁舎の塀の外で用を足すようなものもいる。なお、この場合、大小を問わず座って用を足す。塀のそばでうずくまっているからといって、具合が悪いのではと声をかけてはいけない。
ともあれ、パキスタン時代には一応外人ということで便所にはあまり困らなかった。基本的には専用トイレがあったし、なくてもエラい人の部屋のものを共有させてもらっていたからだ。
さてアフガニスタンの場合である。いまのところそれほど多くの事例を観察したわけではないが、今いる教育省の省庁ピルでは相当な高官にならないと専用トイレは無い。相当な高官とは大臣(ワズィール)類は副大臣(モイーン)のレベルである。実はこのレベルでも「専用」ではなくVIP用を共同で利用している。副大臣の下が局長(ライース)、そして副局長(モアーウィン)、課長(モディール)あたりまでが幹部職であるが、局長級からはもう部屋にトイレは付属していない。うちの局長などは一般職員用と同じものを使用している。
一般職員用の共同トイレであるが、もちろんそんなに状態が言い訳ではない。しかしパキスタンのものに比べれば比較的管理が行き届いているような気がする。しばしば詰まっているところを目撃するが、これが何日も放置されるということはない。
興味深いのは男性用の小用。いわゆる立って用を足すものだが、このとき斜めに立って用を足しているものが多い。横からの覗き見防止が目的と思われる。そもそも立ちションについては極めて抵抗感が強いようで、欧米の外国軍兵士が嫌われる理由としては、ところかまわず立って用を足すこともそのひとつと聞いた。大用の個室は数が少なく、致し方なく立ってことを行っているのだが、できれば使いたくないというのが本音だろう。ちなみに「郷に入りては郷にしたがえ」ということで、最近は自分も斜めに立っている。
ところで、アフガニスタンの小用器は常識的な高さに設置されているから、多少足が短くても安心だ。パキスタンの場合はとにかく高い。高すぎて届かない。理由もよくわからない。観察したところパキスタン人でも届かない者は多いようだ。そういうことも塀脇での座りションベンを助長しているのかもしれない。
アフガン教育省に話を戻すが、往生するのは茶用の水に便所の水道を使っていることだ。沸かしているから大丈夫だというのだが、標高1800メートルのカーブルでは沸点は100度に至らない。だいたい薬缶もカップも便所で洗っている。お茶の表面には必ず油が浮いているのだが、このほうの原因はよくわからない。
ということで、パキスタンとアフガニスタンの便所カルチャーに見る最大の違いは、役所文化におけるエリート主義の有無ということかもしれない。政治職である大臣と副大臣は別にして、局長もヒラも雑用係も同じ便所で用を足すという、これは一種の平等主義ということができるだろう。パシュトゥーン的な共同体内の平等主義と共産主義時代の画一主義の影響を見ることも可能かもしれない。もちろん、外人のアドバイザーも平等である。